日当たりがよく、藤野のやまなみを見渡すことのできる眺めの良い高台にある吉岡さん宅。そもそも藤野へと来たのは2011年のこと。息子さんを「学校法人シュタイナー学園」へと通わせたいと考えたのがきっかけでした。
「息子の入学のことで頭がいっぱいになっていて… 実は藤野のことはあまりよく知らなかったんですよね(笑)」
と振り返る吉岡さん。しかも、引越し日は東日本大震災の数日後で、なんとか無事に引越せたものの、新天地で迎える震災直後の生活に、当時は不安のほうが大きかったといいます。
アート・ディレクターとしてデザインで社会にコミットしいくことを仕事にしている吉岡さん。「もともと持続可能性について関心があった」ということもあり、藤野を拠点に展開するトランジション活動 ※1 や引越し後すぐに立ち上がった藤野電力 ※2 といったプロジェクトにごく自然と参加しながらお知り合いを増やしていきました。
「藤野に来てから気づいたのは、やりたいことに対してブレーキをかけずに思い切りよくチャレンジしている人がたくさんいるということ。アトサキのことを考えがちな日本において、とても特殊で面白い場所だという印象は今も変わりません」
吉岡さんも、そんな藤野のチャレンジングな雰囲気に巻き込まれるように地元イベントへ参加してくことに。そんな中で出会ったひとつがコーヒーの魅力でした。
今ではコーヒー豆のセレクトから焙煎、ドリップまで行うようになり、イベントなどではご自身で淹れたコーヒーをきっかけに、地元の方々と繋がることも少なくありません。
「好きなことを気負わずに楽しめるというのは、とても贅沢なことじゃないでしょうか」
吉岡さんの淹れたコーヒーは、鮮やかな香りに加えて、柔らかくて穏やかな味わい。
吉岡さん一家が現在の一軒家に引っ越したのは2014年。最初に移り住んだ賃貸の家を、大家さんのご都合で出なければいけない状況に。まさに必要に迫られるカタチで賃貸物件を探し始めました。
「でも当時は、賃貸の物件情報がほとんど出回っていなかったので難航を極めましたね。中古物件も視野に入れなければ見つからなかったんです」
吉岡さんは、やむを得ず藤野の陽当りの良さそうなエリアをじっくり練り歩いて家を探し始めたといいます。
「好条件の家を見つけたら、今度は地元の方に家の持ち主を聞いて、自分で連絡して交渉…まるでDIYのような家探しでした(笑)。でも自分で探し当てたという宝探しのような達成感はありました」
ようやく巡り合った一軒家は、一部の柱が少し傾いており、ジャッキアップして、基礎を補強する必要がありました。
「天井を全て剥がしたら国産材の立派な梁が姿を現したんです。これはこの家の面白い特徴になるな!って思ったのをきっかけにリノベーションに対して思い切りが良くなりました」
どうせなら地元の人達や新しい仲間と面白く繋がるようにリノベーションをしたいと考えた吉岡さん。地元の建築家の友人に相談しながら、フリースタイルで活動している職人さんや作監さんに声をかけてもらい、みんなでワイワイ話しながら一緒になってセルフ・リノベーションに臨むこととなりました。藤野での家さがしやリフォームに対して二の足を踏んでいる方の背中を押せればとブログ ※3 も開設。
「家の改修工事を通して、デザインをもう一度見つめ直すきっかけにもなりましたね。自分では作れない、できないと思っていたことが、自分たちでできるようになっていく喜びを、毎日のように味わえることができましたね」
そうした再発見と新発見を通して、仕事の幅も人のつながりの輪も広がったといいます。
友人のアドバイスから、柱のエイジング加工をしたり、脱衣場のタイル張りをしたり、建具を作ったり。吉岡さんの家からは、リノベーションの楽しさが伝わってきます。
「自分の好きなようにできて、手間をかける喜びがあるんです」
という吉岡さん。気になったところは自分たちでデザインと補修を繰り返すことで、家に対する愛着も日々増しているといいます。
「藤野に来て生き方が少し変わったかもしれないですね。自分たちでできることがたくさん増えたことで、東京に住んでいては見つけられなかった楽しみに気づくことができたと思います。 藤野の生活ですか? 面白いですよ」